東工大元素戦略拠点(TIES)と元素戦略研究センター(MCES)の発足に寄せて



物質を構成するのは100余りの元素。多存元素を駆使して有用な機能を実現する処方箋は、21世紀の材料科学、最大の課題だ。2004年にJST主催のシンポジウム「夢の物質を求めて」(主宰:村井眞二先生。議長:玉尾皓平先生)が箱根で開催された。熱心な討議は、中村栄一先生(東大)発案による「元素戦略」(Element Strategy Initiative)というコンセプトに収斂し、その典型例として筆者らのC12A7の機能発現が挙げられた。「元素戦略」は第3次科学技術政策のナノテク・材料分野の中で取り上げられ、平成19年から開始された文科省・経産省の連携プロジェクトの第一号の発足に繋がった。

当時、こうした動向は日本だけであったが、中国の希土類元素の輸出制限問題を契機に状況は一変。米国、欧州、韓国、そして中国で次々に類似の政策が立ち上がった。特に米国の対応は迅速かつ斬新であった。輸入に頼っている産業と国防でキーとなる元素を指定して解決を目指すSecure and Critical Element Initiativeに続き、昨年6月には材料研究のジャンプアップを狙うMaterials Genome Initiativeを発表した。後者の内容は、ゲノム解析から創薬を目指すように、機能要素の解析から具体的材料を設計しようというもので、革新的材料科学の構築そのものといえる。日本も昨年初めから文科省ナノテク室主導で、元素戦略検討会が設置され、ナノの次の重点政策として元素戦略を如何に進めるかという議論が集中的に行われた。その結果、10年の研究期間で全国的な拠点を設置してオールジャパンで取り組むこと、材料創製と理論・計算科学、先端計測の緊密な連携、そして強力なリーダを立てることという方針が決まった。担当室長の獅子奮迅の働きと財務当局の理解で、緊縮財政下の新規施策としては異例の予算措置がなされ、本年2月に磁石材料、電池・触媒材料、電子材料、構造材料という4つの領域でプロジェクトが公募となった。

筆者らは「ユビキタス元素戦略」プロジェクトを強力に推進しているなどのこれまでの経緯と大学当局の支援により、電子材料領域に応募をすべく準備を進めた。物質・材料研究機構(NIMS)の大橋領域長、高エネルギー研究機構(KEK)物質科学研究所の村上所長から連携の申し出を受け、東工大を拠点するTIES構想をまとめ公募に応じた。そして幸いなことに6月末に採択通知が届いた。

TIESの遂行を主目的とする学内組織、元素戦略研究センター(Materials Research Center for Element Strategy, MCES)が8月1日から10年の期限で統合研究院の中に発足した。大学当局の強力なバックアップにお蔭である。このセンターには産学連携を積極的に進めるすずかけ台キャンパスの起爆材になって欲しいという期待があり、東工大の基礎研究から生まれた成果を社会に見える形にしたいと思っている。いつまでも戦前のフェライトが看板では情けない。筆者は1995年に応用セラミックス研究所が全国共同利用研に転換する際の熱い議論の中で「野心的な研究に取り組まなければここに居場所はない」という感覚を憶えた。助教授として赴任して2年目のことである。その感覚が未だにずっと残っており、MCESの運営にも生かしていきたい。元素戦略を幻想戦略に終わらせてはいけない。

日本発のコンセプトである元素戦略を推進する、目に見える開かれた拠点として、国際的に成果を発信していきたいと意気込んでいる。ご支援の程宜しくお願いします。

東京工業大学 元素戦略研究センター長 東工大元素戦略拠点 代表研究者 細野 秀雄

 

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